150BPM

ものすごいサブカルですが、あまり気付かれません。

王家衛4Kレストア版「天使の涙」を見た話と「エフェメラ」

ついに、ついにこの時期が来てしまった。

愛する香港映画が4Kレストア版で見れる日が。

 

unpfilm.com

詳しくはサイトから。

 

レストアが発表されたのが2015年。どれだけ待ちわびたことか。

10代のころVHSで見た映画が、大人になってからスクリーンで見れるなんて思わなかった。

ついこの前、渋谷のbunkamuraで一瞬だけ上映された「覇王別姫」のチケットは即ソールドアウトだったから、見れなかった。

見れなかったくらいがちょうど良かったのかもしれない。

ある映画を一番最初に浴びた時の、めちゃくちゃエモーショナルな瞬間っていつでも超えられないし。

 

香港映画への思いはこちらから。(重め)

pecotaranta.hatenablog.com

 

大本命の「恋する惑星」は時間的に間に合わなかったんだけど、勢いで「天使の涙」のチケットを取った。

その日は1日、気圧のせいか天気の変化のせいか具合が優れなくて久々に本当に辛かった。

締め切りがあったにも関わらず、信じられないくらいダウナーだった。

(翌日マジでハズせない予定があったので、途方にくれてたレベル)

そのせいもあって、初日のチケットを取るのに尻込みしてた。

それでもやっぱり見たくて、上映2時間前くらいなのにチケットが取れたのはラッキーだった。

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劇場に向かうと、ひとつ前の上映の「恋する惑星」のエンディング「夢中人」が外まで聞こえてきて、気づいたら泣いてた。

「これからわたしは映画館のスクリーンで王家衛を見るんだ」ってずっしりと重い気持ちになった。

次香港に行ったら、絶対に「あのエスカレーター」に行く。


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この、トニーレオンが帽子を脱いで髪をなでつける場面は無限にループしていられる。

この「天使の涙」の満席は、コロナ禍以来久々のことだったらしい。

映画とか舞台とかライブとか。娯楽が失われるなんて、人のイマジネーションは一体どうなってしまうんだろう。

開演前、巻頭の野崎歓の文章が読みたくてパンフレットを買った。

学生の頃、フランス文学なんて大っ嫌いだったけど、野崎先生の公開講義はよく見に行ってた。

というのも、ずっと下北沢に住んでるし、駒場東大もすぐだし。

とにかく、野崎先生のお人柄も文章も大好きだった。(後に香港映画、特に王家衛の本を出すほどフリークだってことを知るんだけど)

パイナップルの缶を食べていたのは、わたしだけじゃなかったみたい。


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初っ端からいきなり湾仔のMTRの駅のシーン。

はじめてお仕事で派遣されたところが湾仔だったから、「キッツ」って思いながら見た。

毎日コンベンションセンターまで、歩いて通勤していたのが懐かしい。

仕事後に、疲れてホテルのエレベーターに乗ったら他の階から顔の濃い人が乗ってきてぶつかった。

「Sorry」って目も合わさずに携帯をいじりながら謝ったら「お疲れ様です」って、他の 部署の人だった。

(のちに伝説となったこのエピソードにより、戦友となるマイメンと知り合うきっかけになった)

 

スクリーンの中ではみんな紙巻きタバコを吸ってる。

香港は街角にオレンジ色のでかいゴミ箱があって、その上に灰皿があるから、歩いてるみんなが結構タバコを吸ってた。

ご多分に漏れずわたしはベープを吸いながら、キレた表情で通勤してたと思う。

 

流暢な広東語を喋る若い金城武が良い。

カメラワークがわちゃわちゃしてるけど、わたしはそういうの気にしない。(酔わないし)

こういう映画は「雰囲気もの」だと思うから、サラッと見ることにしてる。

「死にに行く」殺し屋のシーンは何度みてもモノローグが痛い。

ラストはYouTubeでしぬほど見てきたのに、バイクのシーンでThe Flying Picketsの「Only You」の「パラララー」って聞こえてきた瞬間、情緒が崩壊した。

もう何で今わたし泣いてるんだろうって思いながら、泣いた。

(痛い女ですんませんね!)

 

上映が終わってエンドロールが終わった頃、会場は自然と拍手が起こった。

映画館でこんなエモい体験、したことねーよ。

劇場にある一角。あれもこれも香港。

 

ここ最近、ちょっとツラいお別れがあって完全にトラウマレベルだったんだけど、いい加減そのことに向き合わなくちゃいけないタイミングだった。

それは、わたしを香港にいざなった理由の一つを失ったような気持ちだったから。

別ればあれば、出会いもある。いくらか気持ちを片付けなくちゃいけなかった。

 

 

翌日、パンフレットの野崎歓の文章を電車で読んだら、また情緒がしんだ。

「映画がひとときの夢だとしたら」なんていう刺さる言葉で始まる文章は、土曜日の早朝の人がまばらな電車の中で読むもんじゃない。

エフェメラ」を追うような20代を過ごし、30代を迎えてもなお追い求めてしまっていた。

そんなことを反省はしないけれど、これからはそのエフェメラを紡いで大事な時間をしっかりと手に入れていきたい。

その日はこころのリハビリに付き合ってもらうような1日を過ごして、前向きになれた。

いつも来ない不忍池の反対側のベンチに座って、目の前を通り過ぎるスワンボートを見ながら、湿気の多い空気を吸った。

(付き合ってくれたマイメンありがとうだし、これからもマジでよろしくお願いしたい)

 

あと4作品。完走できるかな。見たらひとつひとつ書き留めておこうと思う。

 

The deep scars you left on me will be neatly buried by someone else, and I'm sure I'll forget your face when I see you on a street corner in Hong Kong la.